最高裁判所第一小法廷 昭和25年(あ)2920号 決定 1951年4月12日
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人横田隼雄の上告趣意について。
しかし、東京地方裁判所が昭和二四年一一月二日附を以て被告人に対し本件起訴状謄本と同封して送達の手続をとった弁護人の選任に関する通知書に対し、被告人は同年同月八日附で国選弁護人を頼みたい旨を同裁判所あてに回答していることは記録上(三丁、四丁)明らかであるし、また、被告人が翌九日小松川警察署の留置場から移監されて(記録第三五丁参照)東京拘置所に入所の際には既に本件起訴状の謄本を所持していたことは、当裁判所の職権調査の結果明らかであるから、同月二日附の本件起訴状の謄本は同月八日までに被告人に交付されていることが推断できるのである。しかのみならず、同年一二月一日の第一審裁判所の第一回公判期日に被告人及びその弁護人が出頭し、検事の起訴状の朗読後裁判長から被告事件について陳述することがあるかどうかを尋ねられた際にも、なおその後本件第一審判決の言渡しを受けるに至るまでのあいだにも、本件起訴状の謄本の送達がなかったことについて異議を述べた形跡のないことは記録上明らかなところである。されば、仮りに本件起訴状の謄本の送達が警視総監あてになされ所論のように小松川警察署長あてになされなかったことが適式でないとしても、被告人に対し豪も不利益を及ぼすものとはいえない。されば所論は明らかに刑訴四〇五条に定める上告適法の事由にあたらないし、また、同四一一条を適用して原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとも認められない。
被告人の上告趣意について。
論旨縷述するところは、要するに、事実審たる第一審裁判所がその裁量権内で適法にした事実の認定と刑の量定とを非難するにとどまるものであって、明らかに刑訴四〇五条所定の上告理由にあたらないし、また、四一一条を適用すべきものとも認められない。
よって刑訴四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項に従い主文のとおり決定する。
この決定は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)